愛知の文学

人生劇場

作品地域分類作者
人生劇場 西尾市 小説 尾崎士郎(おざきしろう)
  • 尾崎士郎
    (おざきしろう)

  • 「人生劇場」の碑
    (西尾市)

尾崎士郎は小説家。明治31(1898)年,愛知県西尾市に生まれる。古風な日本的ロマンチシズムが戦時下の風潮に受けて花形作家となったが,戦後は戦争責任を追及された。人生と文学にロマンを求めた彼の作風を,三島由紀夫は”硬派の文学”と称した。昭和39(1964)年に死去。
『人生劇場』は20年近い歳月をかけて完成された大河小説である。昭和8(1933)年3月から都新聞に「青春篇」の連載が開始され,昭和26(1951)年までに「愛欲篇」「残侠(ざんきょう)篇」「風雲篇」「遠征篇」(後に「離愁篇」と改題)「夢現篇」「望郷篇」「蕩子篇」が時をおいて新聞や雑誌に連載された。

三州(さんしゅう,今の三河地方)横須賀(よこすか)村の旦那衆辰巳屋(だんなしゅうたつみや)の主人青成瓢太郎(あおなりひょうたろう)は,息子の瓢吉(ひょうきち)に土地の侠客(きょうかく)気質をたたき込む。
瓢吉は岡崎中学(現,岡崎高校)を経て,早稲田(わせだ)大学に入学する。そこで総長大隈侯(おおくまこう)婦人の銅像建立に端を発した学校騒動に巻き込まれたり,江戸川河畔(かはん)の柳水亭の娘お袖(そで)との恋愛を経験する。また父瓢太郎の死,吉良(きら)の仁吉(にきち)の血をひく侠客吉良常(きらつね)や岡崎中学時代の恩師黒馬先生の放浪など,さまざまなことが瓢吉の周辺に展開していく。
社会に出た瓢吉は挫折(ざせつ)を繰り返した後,みじめな生活の中で懸賞小説に応募し当選する。新進作家小峰照代(こみねてるよ)と出会った瓢吉は彼女との愛に身を任せていく。しかし戦争が始まるとともに,瓢吉の生活はさらに幾多の変転を重ねることになる。
『人生劇場』は,主人公青成瓢吉が「人生はいかに生きるべきか」を考え,さまざまな体験をすることが中心であるが,吉良常や飛車角(ひしゃかく)など脇を固める者の活躍ぶりも大きな魅力である。

初篇である「青春篇」の「序章」では当時の三州横須賀村と青成瓢太郎が忠臣蔵との関わりで紹介されている。主人公である瓢吉は大学へと進学するため東京へと旅立っていく。ここを出発点として,瓢吉の青春ロマンが展開されることになる。

西尾市は「忠臣蔵」ゆかりの地として全国に知られる。町立図書館には,尾崎士郎記念室があり遺品や初版本などが展示されている。また,その隣には東京の自宅から書斎(しょさい)が移築された。