感染症とのたたかい

感染症とは

びょうげんたいが体内に侵入して増殖することによって,からだの機能に異常が起きたり,からだの組織が変化したりする病気がかんせんしょうである。病原体には,細菌ウイルスのほか,菌類原生生物などがある。
ある個体に感染し,そこで増殖するだけでは,その個体とともに絶滅してしまう。病原体は,他の個体に感染することで増殖をくり返す。多くは,せきやくしゃみなどのまつふん尿にょう,血液などの体液などを通して,他の個体にでんする。

免疫の利用

ヒトは絶えず細菌やウイルスなどにさらされているが,めんえきによって防御されている。このしくみを利用して,予防接種血清療法が開発された。ワクチン(無毒化した病原体など)をあらかじめ接種することで,その病原体に対して,すばやく反応できるようにするのが予防接種。ウマなど他の動物に病原体を入れて,動物がつくる抗体が含まれる血清を利用するのが血清療法である。
ウイルスは突然変異を起こしやすく,ワクチンを開発してもすぐに効果がなくなる。たとえば,インフルエンザウイルスは,流行する型を予想してワクチンをつくり,毎年接種する必要がある。
また,はしかなどは,抗原との接触が免疫を持続させる(ブースター効果)と考えられている。流行が抑えられると,逆に大きな流行の危険が生じることもある。このような場合,予防接種の回数を増やす必要がある。

抗生物質の利用

アオカビから出される成分が,ブドウ球菌の増殖を抑える働きがあることがわかった。この成分がペニシリンである。ペニシリンのように,微生物が生産し,他の微生物の発育を阻害する物質をこうせいぶっしつという。天然の抗生物質だけでなく,化学的にも合成できるようになったので,最近はこうきんやくとよばれている。抗菌薬は,細菌による感染症に対して,すばらしい効果をもたらした。
ところが,抗菌薬を使い続けると,抗菌薬が効かない細菌(たいせいきん)が生じる。細菌は増殖の過程で突然変異を起こすことがある。たとえば,ある抗菌薬の耐性菌を含んでいる細菌が体内で増殖しているとき,その抗菌薬を投与すれば,耐性をもたない細菌だけが減少するため,耐性菌は増殖しやすくなる。
抗菌薬が存在する新しい環境では,耐性という形質が細菌の生存に有利になり,この形質が増加する可能性が高くなる。環境の変化にともなって進化すると言える。
耐性菌を増殖させないために,抗菌薬は,適切なものを適切な量,適切な期間だけ使用して,むやみに使わないように注意する必要がある。

新しいインフルエンザ流行の危機

インフルエンザはインフルエンザウイルスによる感染症である。インフルエンザウイルスにはA,B,Cの3つの型があり,C型は軽いかぜの症状,A型,B型は季節性のインフルエンザを起こす。周期的に大流行を起こすのはA型である。
A型ウイルスの表面には,HA(ヘマグルチニン)とNA(ノイラミニダーゼ)という2種類のタンパク質がある。さらに,HAは16種類,NAは9種類が知られていて,H1N1〜H16N9の亜型に分類される。2009年の新型インフルエンザウイルスはH1N1亜型である。
ウイルスは,他の細胞に入り込み,その構造や機能を利用して増殖する。HAは,宿主とする細胞表面の受容体を認識して結合する。そのため,ウイルスが宿主とする細胞には特異性がある。つまり,鳥やブタに感染するインフルエンザウイルスは,ふつう,ヒトでは効率よく増殖することはできない。
しかし,ウイルスは突然変異を起こしやすい。また,2種類のウイルスに同時に感染することで,新型ウイルスが出現することもある。強い病原性を保ったまま,ヒトへの強い感染力をもったウイルスが生まれると,それはヒトにとって脅威である。

新型ウイルスの誕生
参考文献
  • 「薬はなぜ効かなくなるか」橋本一(中央公論新社,2000)
  • 「感染症とたたかう」岡田晴恵/田代眞人(岩波書店,2003)
  • 「新型インフルエンザ」山本太郎(岩波書店,2006)